ワーグナー : 歌劇《タンホイザー》序曲
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カラヤン晩年の名演 |
晩年のカラヤンは、決して、よい状態だったとはいえない。まず健康上の理由で、彼は、立って指揮することができなくなっていた。また女性クラリネット奏者の入団をめぐってベルリンフィルと対立しこともあった(ザビーネ・マイヤー事件)。この問題は和解にいたり表面的には解決したが、この事件以後、カラヤンはベルリンフィルよりウィーンフィルを指揮することになる。
本CDは1987年夏のザルツブルク音楽祭におけるウィーンフィルとのライブ録音である。カラヤンは、この録音の2年後、1989年7月16日に81歳で没するわけだが、彼は、この録音当時、決して不治の病に冒されていたわけではない。また彼は死の直前まで、将来に対する前向きなビジョンを持っていたと伝えられる。
しかし、80歳を前にした人間が、死を意識しないことはないだろう。晩年の帝王は、全盛期の帝王とは違う。前者は、オーケストラのために、また、歌手のために指揮をしているかのように思える。つまり、この演奏からは無我の境地に達した芸術家の音楽を聴くことができる。人生の終わりにさしかかった人間の諦観。それは純粋で美しいだけではなく、完璧さをも、もたらすのであろう。≪タンホイザー序曲≫では、若き日のカラヤンとは違った完成度を感じさせる。
≪トリスタンとイゾルデ≫の「愛の死」は、間違いなく歴史に残る名演である。ジェシー・ノーマンとのこの競演は、彼女の歌唱力により、大きな成果と成功をもたらした。のみならず、死を間近にした芸術家の技が、いかに素晴らしいかを知ることができる。

