ドビュッシー―想念のエクトプラズム
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蠱惑的な本 |
青柳さんがいかにパワフルで多彩な人だということを書くことはしない。彼女のホームページをご覧いただければいい。私はこの本についてのみ書くことにしたい。この本の萌芽というべき「エッセイ」(オックスフォード流にいうエッセイにはとても及ばぬものではあったが)がユリイカのドビュッシー特集に出た。私はそのみょうちくりんな文体に、なにか心騒ぐものを感じた。それはいいとか悪いとかの価値判断ではなかった。ただ生理的には少し苦手な文章で、これは文章の達人となった現在の青柳さんの本にも時々見え隠れする。それは不思議にも彼女の祖父であるフランス文学者の青柳瑞穂の翻訳に私が感じた違和感と似ているのである。ともあれ、そのユリイカの文章は、なにかはかなげでノンシャランスな文体ながら、当時、まだ日本の普通の音楽愛好家が知っているドビュッシー像とは異なる情報が、実に濃い密度で詰まっていた。私は彼女のドビュッシー演奏を手放しで好きだとはいえないし、著作もとくに女性論には突っ込みを入れたいところもあるのだが、あの時点でああいう文章を書き、そしてその後ゆっくりと熟成するようにこの本を完成させていったことには素直に感動したい。この本は、ドビュッシーっておフランス風の印象派だなんて信じている人にはいささかきつい本だが、この本の洗礼もぜひ受けておくべきだし、青柳さんも今までのステレオタイプのドビュッシー像を破壊するために、わざと悪人になっていてくれるところもある。とにかく、楽しい本ではある。私はこういう本を敢えて出版してくださった青柳さんに感謝したい。ただ人によっては好悪の情でこの本が気に入らない人もいるであろうことをお断りしておく。

